顎関節症
* 当院は、矯正治療を専門に行う医療機関です。
顎関節症に対する治療は行いません。
1.疾患名、定義
2.原因
3.検査
4.治療
1.疾患名、定義
口を開ける時や閉じるときに顎の関節のあたりで”カクッ”や”コキッ”とか”グジュグジュ”と
いう音がするのは顎関節雑音と云われるものです。
また、口が十分に開かなかったり、開ける途中でひっかるような感じがするのは
顎関節の運動制限や運動障害と云われるものです。
さらに、口を動かす際に、顎の関節のあたりに痛みを伴うこともあります。
このような症状は、一般に顎関節症(temporomandibular arthrosis)と呼ばれています。
しかし、原因も症状も多様であるこの病態に対して顎内障
(internal derangements of temporomandibular joint)とか
顎機能障害(temporomandibular disorders)という病名が用いられることもあります。
日本顎関節学会では、顎関節症を次のように定義しています(1996年 1998年)。
顎関節症とは顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節(雑)音、開口障害ないし顎運動異常を
主要症候とする慢性疾患群の総括的診断名であり、その病態には
1.咀嚼筋障害
2.関節包・靭帯障害
3.関節円板障害
4.変形性関節症 を含む。
注:顎関節および咀嚼筋の疼痛、関節(雑)音、開口障害ないし顎運動異常の主要症候の
少なくとも1つ以上を有すること。
顎位の変化あるいは筋の圧痛のみは含めない。
頭痛や耳疾患、精神疾患、神経疾患などは含まない。
また、顎関節症(顎関節雑音、運動制限、疼痛)を訴える患者さんの中には、
これらの症状のほかに頭痛や頸から肩にかけての”こり”や痛み、
さらに全身的な不調を併せ持っている場合も多くあります。
2.原因
これまで顎関節症の発症メカニズムとしては、咬合(噛み合わせ)が重視されてきました。
しかし、近年では、筋のスパズム(痙縮)や精神的ストレスなどさまざまな因子が
考えられています。
米国のNIDR (National institute of Dental Research)
(注:我が国の厚生労働省に相当する機関の歯科部門)が、
顎関節症の発症原因として、次のような見解を出しています。
1.明らかな原因:下顎や顎関節への外傷(パンを食べた。急に大きく口を開けたなど)
2.明らかではないが、関連性が高いと考えられる原因:精神的ストレスや歯ぎしりや
食いしばりなどの習癖
そして、最後に、
3.最近では関連性が低いと考えられる原因として、悪い噛み合わせを挙げています。
1980年代には、顎関節雑音の原因は、関節円板の転位(下図参照)によるものと
考えられて、円板を復位させる(リポジショニング)ための種々の咬合に対する治療法が
中心に行われてきました。
顎関節MRI
(放射線クリニックに撮影を依頼しています)
開口位で関節円板はやや後方に転位 左側関節円板が外側に転位
しかし、その後、CTやMRIなどによる検査が取り入れられるようになって、
円板を復位させることを主眼とした治療の術後経過は必ずしも期待するほどではない
場合があることが明らかになってきました。
現在では、咬合以外の精神的ストレスや種々の習癖(頬杖、寝癖など)も含めて
考えようとしています。
3.検査
顎の関節に問題があるのかを確かめるためには、
問診(これまでの症状や習癖などの聞き取り)、
レントゲン写真(パノラマX線写真、顎関節規格X線写真など)、
筋電図や下顎運動検査などを行います。
パノラマX線写真 顎関節規格X線写真
筋電図 下顎運動検査
さらに、顎の関節の骨(関節頭)や関節のクッション(関節円板)の位置や形態の異常が
疑われる時には、3D−CTやMRI検査を追加することもあります。
3D−CT 顎関節MRI
(顎変形症や顎関節症などの場合には放射線クリニックに撮影を依頼しています)
4.治療
顎関節症の治療は、いきなり歯を削ったり、歯に被せてあるものを作り直したり、
外科手術を行うことはまずありません。
ほとんどの場合は、関節円板のずれ(顎内障)や関節頭の骨変形(変形性顎関節症)の状態を、
ご理解いただき、自己管理によって症状の改善を図ります。
顎関節規格X線写真(右側 閉口時) 口腔内写真(正面) 顎関節規格X線写真(左側 閉口時)
左側関節頭は関節窩内で前下方に位置している
3D−CT パノラマX線写真 3D−CT
右側関節突起は短かく、関節頭の骨変形が認められる
まず、口を開ける時に痛みがあったり、大きく開きにくい時などは、
顎関節と顎の筋肉を安静にすることが重要です。
実際には、口を大きく開けないようにする(食物の大きさを小さくする、大あくびをしない)とか、
硬いものを噛まない(軟らかく調理したものを摂るのもよいでしょう)ように注意します。
ちなみに、口がどのくらい開くのか(最大開口量)を診させていただく際には、
ノギスなどを用いて距離を計測することが殆どですが、
ご自分で確かめられる場合には手指3本が縦に入るようであれば十分です。
しかし、日常生活では食事や会話に支障が無い程度まで開けることが出来るのであれば、
無理をしてそれ以上開けようとされないほうがよろしいかと思います。
その後は、顎の関節に負担がかからないように歯軋り、くいしばりや悪い姿勢などの癖を
正していくように心掛けましょう。
このようにすることで、早ければ1か月くらいで、ゆっくりでも半年から1年くらいで
次第に軽快していくことがほとんどです。
また、スプリントと呼ばれる、取り外しの出来る装置を短期間(例えば、夜間だけ)装着することで、
一時的に咬合高径(全体的な上下の歯の噛み合わせの上下的距離≒高さ)を変化させて
→顎の筋肉の活動量が減少
→顎関節への負担が軽減
→症状が緩和されることもあります。
スプリント
最後に、顎関節症の発症に咬合(噛み合わせ)の関連は低いという見解はあるものの、
明らかに好ましくない咬合(噛み合わせ)が顎関節に悪影響を及ぼしていると
考えられるケースがしばしば見受けられます。
逆に、顎関節症が原因で、歯並びが悪くなったり、顔の歪みや変形を
引き起こすこともあります。
矯正治療は、それ自体は顎関節症の痛みや運動制限に対する即効性は少ない
かもしれませんが、症状を軽減させたり、将来的に症状が増悪する可能性を
少なくするという点で意義があると云えます。
顎関節に限らず、一般に、
・物体に加えられる力が過大であるとか、
・力のかかる方向が本来の受け容れ易い方向とは異なるとか、
・そしてこれらの力が必要以上に過度に繰り返されることによって、
物体は次第にダメージを受けていく(壊れていく)ものと考えられます。
こう考えると、矯正治療は、好ましくない噛み合わせから生じる
不適切な力(の大きさ、方向)を修正する一つの方法として捉えるべきでしょう。
歯並びや口もと&顔貌の改善を目的に矯正治療を開始される患者さんに対する
諸検査の一つとして、上記のような顎関節の診査と検査の後に診断、治療を行っています。
注:当院は、矯正治療のみを専門に行う医療機関です。
顎関節症(そのもの、単独)に対する治療は行っておりません。)
*顎関節症に関する書籍としては、顎関節症の治療・研究で優れた実績をお持ちの先生方が
執筆されたこの本がとても分かりやすいと思います。
顎関節症で困ったら 専門医がおしえるセルフケア
木野孔司 杉崎正志 和気裕之 著 砂書房
また、顎関節症ではなく、歯・口・顔・あごの痛みや違和感に関する書籍には、このような本があります。
口腔顔面痛を治す どうしても治らない「歯・口・顔・あごの痛みや違和感」がわかる本
井川雅子 今井 正 山田和夫 著 講談社 健康ライブラリー
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