矯正治療に伴う痛みについて
矯正治療では、通常、それぞれの歯にブラケットという装置をつけます。
それから、ブラケットにある溝(スロット)に、種々のサイズ、硬さの
矯正用ワイヤーを順次、装着していきます。
各々の歯は、ワイヤーが発揮する力によって、目的の位置へ動かされて、
最終的に、きれいなアーチ型の歯並び(歯列)が出来上がります。
超弾性矯正用ワイヤー装着 1か月後 さらに1か月後
治療の初期には、超弾性の形状記憶合金で出来た矯正用ワイヤーを
用いて、持続的な弱い力を加えます。
アーチから遠く離れている歯には相対的に強い力がかかるので、
痛みとともに、歯がぐらぐらと動揺することもあります。
痛みは、調節に来られた日から4〜5日の間が特につらいようです。
この間は、硬い食物を強く噛むことは難しいかもしれません。
しかし、その後は、あまり気にならなくなります。
治療が進行するにつれて、痛みの程度や期間は徐々に減少していきます。
装置によって、歯が動かされる、或いは歯に力が加えられる感じは、
自分の指で、歯をじわじわと押してみた時と似ています。
しかし、これらの痛みは、我慢できないものではありません。
だからこそ、患者さんが安心して矯正治療を受けて、
望ましい咬合を手に入れているのです。
そもそも、矯正治療における歯の移動は、矯正力を加えることで、
人為的に炎症を起こしており、概ね痛みを伴うことになります。
ちなみに、矯正学的に最適な力(至適矯正力)とは、
疼痛や歯根吸収を伴わずに、最大の組織反応を起こして、
速やかに望ましい歯の移動ができる力と考えられています。
通常、鎮痛剤を使用することはありませんが、もし使用する場合には、
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)やNSAIDs以外の鎮痛剤が
挙げられます。
このうちのNSAIDsは鎮痛作用、抗炎症作用、解熱作用があると
されています。
一方、NSAIDs以外のアセトアミノフェンは正確な作用機序は
分かっていませんが、抗炎症作用はほとんど有しておらず、
中枢神経に働きかけているとされています。
矯正歯科における鎮痛剤使用にあたっては、アセトアミノフェンが
用いられることが多いようです。
なお、NSAIDsはプロスタグランジン(PG)合成阻害作用によって、
歯の移動時に重要な役割を担う破骨細胞の出現が減少し、
歯の移動に影響を及ぼすとされてきましたが、
矯正歯科で用いられる投与量程度では臨床的に歯の移動に影響を
与えることはないと云われています。